過激な性的描写のオンパレード
――「英子さん」
部屋の英子がこちらを向いた気配に、彼は勃起した陰茎を外から障子に突きたてた。障子は乾いた音をたてて破れ、それを見た英子は読んでいた本を力一杯障子にぶつけたのだ。本は見事、的に当って畳に落ちた。 これがかの有名な現東京都知事で作家の石原慎太郎の芥川賞受賞作『太陽の季節』のチンポ障子シーンである。昭和30年に発表されたこの作品は、上記の記述からも分かるように、赤裸々に若者の性文化を描いたものとして社会に大きな衝撃を与えた。 確かに芥川賞受賞作とか文芸作品とかの謳い文句からすれば異様な臭気を発するこの"チンポ障子"だが、当時はもちろんインターネットなどない時代。人々は何よりも自由な表現媒体として、文学というものにあらゆる役割を求めていた。 あらゆる役割とは、つまり性的な表現も含めてのこと。前記した石原慎太郎の作品も、その過激な性描写から非倫理的だと非難を浴びたが、それは戦後荒廃した国民生活の中で、ブルジョワ的な生活を送るごく一部の若者に対してのものだったとも言える。 加えて言うならば『太陽の季節』の性的描写がそれほど特別に非難されるほどの過激なものだったとは思えない。やはり当時巻き起こった非難の嵐は新世代への洗礼という意味合いが強かったのだろう。なにせ日本近代文学の巨匠たちは石原慎太郎も及びもしないふしだらな小説を残しているのだから。そこで今回は近代文学と崇められている巨匠たちの作品からあまりにも陰部の疼く作品を紹介したい。 まず真っ先に思い浮かぶのが日本近代文学史上最大の異端児で、耽美派なんて大そうな形容をされている巨匠・谷崎潤一郎だ。 『卍』や『鍵』、さらには1981年に伝説のポルノ女優・愛染恭子主演で本番行為が話題になった『白日夢』など、今世紀に入っても映画化させれる彼の作品群は、さすがエロ界の巨匠と異名を持つだけあってフェチ気質満載の過激な性的描写のオンパレードとなっている。 ただ、そんな彼の膨大なエロ小説群の中で記者がもっともエロくて面白いと推薦するのが『痴人の愛』である。『痴人の愛』とは、一言で言うと、冴えない男が十代の絶世の美少女・ナオミを囲い込むという話だ。カフェでナオミを見つけた主人公・河合は、彼女を将来の自分の妻にしようと画策する。が、やがて彼女に振り回され人生を破綻させてしまう。ナオミは天性の美女であるとともに、その美女性は、男を手玉にとることに長けているのだ。そんなナオミの妖艶な美しさの描写と谷崎独特のフェチズムに満ちて語られる偏愛は、一種コミカルでもあるが、それだけ執拗に描かれ何度も陰部の疼きを感じるほどエロい。 さらに小説の神様として崇められている志賀直哉の小説にも、奇妙なエロさを醸し出す秀作が多い。 たとえば、彼の中期短編作品には、主人公と女中の淫らな関係を暴露するような作品が多く見られる。私小説作家としても知られる志賀であるから、つまり、これらは彼の告白記でもあるといえる。大変な魅力的人物としても知られ、文壇中から尊敬を集め、小説の神様と呼ばれた志賀の女中とのふしだらな関係や妄想が満載の名作短編の数々。こう考えれば、どんなに洗練された美しい日本語で綴られた志賀作品といえども、陰部の疼くエロ作品だと言わずにはいられない。 そんな彼の作品中でもことにそのエロさが際立っているのが『雨蛙』だ。この作品では、自分の妻の不貞に悶々とする主人公が描かれている。作中では、妻が明らかに不貞を犯した場面は登場しない。が、それでも、確かにそうであったろうことは想像できるほど、本文中に悶々としたエロ雰囲気が漂う。 作中、若くて魅力的な男性と一夜を共にしたと思われる妻。そんな彼女は作品の最後に隠微な美しさをまとって夫の前に現れる。無口な妻は見知らぬ男にエロエロに開眼されたというわけだ。主人公はそんな妻のエロ的開眼を最初は喜んで受け入れるが、後になって大きな嫉妬を燃やす。そこに生まれる葛藤を見事に描いた短編小説だが、まさに読者の陰部の疼きと作者の疼きが連動する名作といえるだろう。 他にも日本近代文学には作者と淫らな関係を結ぶ女中や女学生の描写が多く見られる。それは日本の近代小説が、作者の身の回りに起こった出来事を描く文学的手法である私小説というものに偏った発達をしてきたからだろう。田山花袋の『蒲団』や島崎藤村の『破戒』に端を発するといわれる日本近代私小説群。大胆な自己暴露こそが小説の価値を決めるといわれた時代、文豪たちは赤裸々に自分の性をさらし、その奔放さを競わせた。そんな時代背景だからこそ、日本の近代文学はエロエロ小説の宝庫だとも言える。
by cpu-700mhz
| 2011-02-18 07:31
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