なぜ彼女はAV女優になったのか?『裸心』で明かされたそれぞれの理由
本書『裸心』は、サブタイトルに「なぜ彼女たちはAV女優という生き方を選んだのか?」とあることからわかるように、人気AV女優8人に、その生い立ちから、業界入りした理由、そして引退後の生き方までをじっくりと聞き出した、たいへんに読みごたえのあるインタビュー集だ。
AV女優のインタビューというと、「今日の下着の色は〜?」とか「初体験はいくつ〜?」とか「オナニーは週に何回〜?」とか、そういう鶴光的なものだと相場が決まっている。ビデオの中では、前も、後ろも、汗も、汁も、全部さらけ出している女の子に、いまさらそんなウブなこと聞いてどうすんだ、とも思うが、まあ、そういうものだから仕方がない。 本書の著者も、15年にわたって「週刊プレイボーイ」誌上でAV女優にインタビューしてきた人物だが、そこに満たされないものもあったという。 インタビューの場で、彼女たちの多くは、フィクションとしての自分を語る。雑誌の性質上、それは正しいことなのだが、フィクションとしてのAV女優にどれだけ話を聞いても、その女の子たちの真実は見えてこない。けれど、アダルトビデオに出ているからといって、その女の子が最初から特別な存在であったはずはない。 普通の女の子として生まれた女性たちが、どんな理由でこの特殊な世界に飛び込むことになったのか? その秘密を知りたいと思った著者は、とくに気になる8人の女の子を選び出し、それぞれ長時間にわたるインタビューをおこなった。 著者はこのインタビュー集を企画した動機を序文で述べているが、その動機というのがあまりにもストレート過ぎて笑ってしまった。 曰く「女が好きだ」である。 「女が好きだ。その気持ちは13歳、童貞の頃からずっと変わらない。女が好きだから、女をもっと知りたい。とてつもなくシンプルな思考のもとで私は生きてきた」 わたしもたいがい女の人が好きだけど、自分の著書の最初の一文に、ここまでストレートに「女が好きだ」って書く勇気はない。まずこれだけで「この著者は信用できる!」と思ったね。 本書には、大塚咲、かすみ果穂、藤井シェリー、範田紗々、佐伯奈々、水野つかさ、滝沢優奈、星月まゆら……という8人のAV女優が登場する。どの子も人並みはずれた美貌と、まさに身体を張った作品で、世の男性諸氏をよろこばせてきた女神たちだ。 でも、共通するのはそこまでだ。彼女たちが生まれ育った境遇や、この世界に飛び込むにいたった背景、そして、AV女優という仕事をどのようにとらえているかは、ひとりひとり違っている。 AV女優っていうと、どうしても不幸な家庭に育って、学校をドロップアウトして、家出して、ヤクザに騙されて、借金を背負って……というVシネっぽいストーリーを思い描いてしまいがちだ。いや、実際そういう子もいるんだけど、そればっかりじゃあない。 大塚咲は、これまでの自分の人生を、少しも不幸だとは思わなかった。むしろ幸福でさえあったという。小学生にして図書館で心理学の本を読みあさり、人間とは何かを知ろうとするような子供だった。卒業後は私立の中高一貫校に進学し、生徒会の副会長をしていた。でも、小学校2年からオナニーはしていた。文武両道……ちがうか。勉学的にも性的にも早熟な子供だったのだ。 範田紗々の場合は正反対で、幼い頃からいつも両親がケンカしている家庭だった。その原因は父親のドメスティックバイオレンスで、いつも鼻血を流している母の姿を見て育った。家族で食事をしていても少しも楽しくなかった。「そもそもあの人たちは結婚するべきじゃなかったんだよね……」という冷めた視線。 そんな彼女だから、AV業界入りしてから何かと世話を焼いてくれる事務所のスタッフに“家族”を感じたのだという。 「紗々が風邪をひいて寝込んだりするじゃない? プロデューサーがね、家にお見舞いにきてくれるの。相手は仕事なんだろうけど、家族みたいな存在だって紗々には思えたのね」 範田紗々は、この場所なら「家族を作れるかもしれない」と思って、AV女優の道を選んだ。 佐伯奈々は、バドミントンでインターハイに出場するほどの充実した青春を送っていたが、大学に進学した途端、先輩から壮絶ないじめを受け、人間不信に陥ってしまう。大学の寮を抜け出し、夜遊びをおぼえ、ホストクラブに通うようになる。やがて、金づるにしていた友達が家族に泣きついたことから、それまでタカっていたお金の365万5000円を返せと迫られた。結局、その返済のためにAV業界入りすることになった。 そりゃ両親は大反対するわな。父親には「ウチの姓を捨てて、今すぐ出て行け。もう二度と帰ってくるな」と言われたそうだ。 かと思えば、藤井シェリーみたいな子もいる。本書に登場する8人の中でいちばん可愛い(※この評価には個人差があります)のだが、いちばん淫乱なのも彼女だ。それは母譲りの血でもある。彼女は、幼稚園時代に母親のオナニーを目撃してしまう。 「たぶん夕方だったと思うんですけどね。寝室のベッドで下半身丸出しの状態でバイブをアソコに擦りつけていたんですよ。 音がしていたから電動タイプだったんでしょう」 なんちゅう観察力の幼稚園児か。ともかく、それでオナニーを覚えてしまった彼女は、翌日から自分も母のマネをするようになる。こういうの「栴檀は双葉より芳し」っていうんだっけ? とにかく、どの子にもそれぞれの人生があり、それぞれの考えがある。 本書は酒を飲みながらインタビューしていて、その点は読む前の心配材料でもあったんだ。だって、人間、酔うとどうしても“物語”を語ってしまうからね。だけど、そういう風にはなっていなかった。女の子たちが語る過去に対して、ときには踏み込んでいき、ときには現実へ引き戻し、ありきたりの“AV女優物語”にはしていない。インタビュアー黒羽幸宏のそうした手腕は見事なものだ。 読み終えて、なるほど『裸心』とはうまいタイトルをつけたものだ、と思った。
by cpu-700mhz
| 2012-06-09 15:00
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